債務整理コラム

2023/05/02 債務整理コラム

不動産の評価方法

破産と違って、所有する財産があっても当然に手放すことを強いられないのが個人再生のメリットの1つです。個人再生手続において、所有する財産の額は、最低弁済額の基準の1つ(清算価値基準)にはなりますが、最低弁済額以上の額を弁済する再生計画案とすることを求められるだけで、所有する財産そのものを手放すことは強いられません。

この理は、不動産を所有している場合であっても妥当します。
所有する不動産に抵当権が設定されている場合、抵当権が実行されて競売によって不動産を失うことはあり得ますが、自宅不動産に住宅ローンの抵当権のみが設定されているケースなら、住宅資金特別条項を定めることによって自宅を保持できる可能性があります。また、自宅以外に無担保の不動産を所有していたとしても、その価値を考慮して算出された最低弁済額以上を弁済する再生計画を立案できるなら、当該不動産を保持することが可能です。

では、個人再生手続で不動産の価格は、どのように評価されるのでしょうか。
不動産の価格に関する公的な資料としては、まず固定資産税評価額に関する評価証明書があります。裁判所は、不動産の価値に関する資料として評価証明書の提出を求めます。
しかし、固定資産税評価額は、不動産の時価とは相当異なるのが普通です。

個人再生手続において所有する財産の価値が最低弁済額の基準となるのは、債務者が破産した場合と比べて債権者が不利益にならないようにするためです(「清算価値保障原則」民事再生法174条2項4号)。
したがって、不動産の価値について把握されるべきは、不動産を処分した場合の価格、より端的に言えば破産管財人が不動産を売却した場合に付くであろう代金の額です。

これを知るために裁判所は、不動産業者の査定書の提出を求めます。不動産業者は、査定書に査定額と売出価格とを並記することが一般的です。前者の額は、短期間で売却を実現できる現実的な見込みのある額が概ね想定されていると考えられます。それが、破産管財人が任意売却した場合の価格に近いと一応考えることが可能です。裁判所は、提出された査定書に基づいて不動産の価格を把握します。

このように不動産の価格について、裁判所が不動産業者の査定書で評価してしまうのだとすると、「知り合いの不動産屋に頼んで安く査定してもらえば、それで通るのか」と思われるかも知れません。

しかし、査定書には、通常、近隣の取引事例、売出事例、路線価等の資料が添付され、物件の特性による価格修正等の理由も記載されます。大阪地裁の場合、「①対象物件が特定され、②作成した業者名及び担当者名が記載され、③作成日付が記載され、④公示価格や路線価等公的価格との比較、周辺取引事例との比較、物件の個性率など、査定額算定の根拠が具体的に記載された内容のもの」を提出するよう求めています(『はい6民です お答えします(倒産実務Q&A)』544頁)。

①~④の記載を見て裁判所は、適切な査定か否かを点検します。査定書の内容が不充分であったり、不自然・不合理と判断された場合には、査定書の取り直しを指示されるでしょう。
したがって、複数の査定書を入手した中から適当なものを提出する、といった工夫はあり得ても、不当に低く操作した価格の査定書の作成を依頼して入手・提出し、最低弁済額を不当に引き下げようとすることは、考えない方がよいでしょう。