2023/04/30 債務整理コラム
個人再生と「浪費」
個人再生の申立にあたっては、過大な債務を負って支払不能のおそれのある状態となった経緯について、裁判所に報告する必要があります。したがって、申立の依頼を受けた弁護士は、依頼者から経緯の詳細を聴き取ります。
聴取りの際、多くの依頼者は正直に説明していただけるのですが、ときに奥歯に物が挟まったように応答をためらったり、不自然な応答をされる方があります。債務をギャンブルにつぎ込んだり、分不相応な飲食遊興を繰り返すなど、借金を重ねた経緯に「浪費」というべき事情のある場合によく見られることです。
おそらく、債務増大の原因に「浪費」がある方の場合、そのような事情をあからさまに弁護士に話し、申立書類に書き込まれて裁判所に提出されると、裁判所の心証を悪くし、再生手続の遂行に支障を生じるのでは、と懸念されるためではないかと推察します。
この点、破産であれば、浪費によって過大な債務を負ったことは免責不許可事由となります(破産法252条1項4号)。したがって、破産申立に至った経緯として、ギャンブルや分不相応な飲食遊興による過大な支出が影響しているという事情があれば、そのことは、免責の許否の判断を慎重に行うべきことを意味し、その結果、裁判所からより詳しい説明を求められたり、反省文の提出や免責審尋期日への出頭を求められたりすることにつながります。
少なくともその限度で、破産の場合は「浪費」という事情が手続の速やかな進行を妨げる面がないとはいえません。
しかし、個人再生の場合、そもそも免責の許可・不許可という制度がなく、「浪費」の有無は再生計画案が認可されるか否かに関係していません。再生計画案は、法定の不認可事由(民事再生法174条2項、231条2項、241条2項)に該当しなければ、当然に認可されます。
裁判所が債務増大の経緯について報告を求めるのは、現在の収入・財産状態が正しく報告されているか否かの検討や、将来の家計収支の見込み(再生計画の履行可能性)についての判断にあたって参考とするためです。決して「浪費があれば、再生計画案を不認可にしてやろう」と思って報告を求めているのではありません。
したがって、裁判所に浪費の事実を報告することについて、恐れる必要は全くありません。債務を負った原因が浪費であれ何であれ、なぜ債務が増大するに至ったのか、という事情をともかくも説明し、裁判所に「説明が不自然だ。何か隠している」と思われなければ、それでよいのです。
むしろ、恐れるべきは、事実を隠したり、虚偽の報告をすることです。事実を隠したり、虚偽の報告をするなどして、そのことが裁判所にバレれば、「申立てが誠実にされたものでないとき」(民事再生法25条4号)に該当するものとして再生手続開始の申立てを却下される可能性があります。
現在の収支に関する虚偽報告の事案ですが、申立書類の虚偽記載が発覚し、裁判所が説明を求めても虚偽を重ね、裏付け資料の提出にも応じなかった事例で、開始申立てを棄却した例があることが報告されています(大阪弁護士会月報2022年6月号61頁)。
したがって、浪費の事実があっても正直に報告をすることが大事です。裁判所への報告に何をどこまで書くかは工夫の余地はありますが、それは弁護士が考えます。個人再生の申立てを弁護士に依頼したなら、まずは弁護士の聴取りに対して、すべてを包み隠さず報告なさってください。