債務整理コラム

2023/04/25 債務整理コラム

給与所得者等再生と勤続期間

給与所得者等再生における弁済額は、小規模個人再生における最低弁済額の要件を満たすことに加えて、過去2年分の可処分所得の2年分以上という要件を満たす必要があります(民事再生法241条2項7号)。
その分、給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも最低弁済額が大きくなることが一般的です。

したがって、通常は、小規模個人再生が可能なら小規模個人再生によることが債務者の利益になります。
しかし、そうは言っても、給与所得者等再生によらざるを得ない場合があります。
小規模個人再生では、給与所得者等再生と異なり、再生計画案が再生債権者の書面決議に付されます。再生債権者の頭数の2分の1以上又は債権額の2分の1超の債権者が不同意の意見を提出した場合、再生計画案は可決されず、手続は廃止になってしまいます。

ですので、少数の債権者が総債権額中、大きな割合を占めている場合であって、当該債権者が不同意の意見を出すことが確実と予想されるときなどには、給与所得者等再生を選択すべきことになります。

もっとも、給与所得者等再生では、小規模個人再生と異なり、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあ」り、「かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれる」ことが手続開始の要件とされます(同法239条1項)。
給与所得者等再生では、再生債権者の決議を経ることなく再生計画案認可に至りますので、その反面、再生計画が履行される蓋然性を確保することで再生債権者の利益の保護が図られているわけです。

そして、債務者の収入が上記要件の「変動の幅が小さいと見込まれる」か否かについては、再生計画案提出前2年間に5分の1以上の変動を生じていなければ原則的にこの要件を満たすと解されています(『改正法対応 事例解説 個人再生~大阪再生物語~』194頁)。

では、定職に就いたのが過去2年間の途中であって、直近2年間安定した収入を得た実績がない場合や、過去2年間の間に転職した結果5分の1以上の変動を生じている場合は、給与所得者等再生は利用できないのでしょうか。

必ずしもそうではありません。前者のようなケースでは定職に就いた時期以降の収入を基準として、後者のようなケースでは5分の1以上の変動を生じた時期以降の収入を基準として可処分所得を計算することとされており(同法241条2項7号イ、ロ)、したがって、法律は、それらのケースでも給与所得者等再生の利用は可能であることを前提としています。

もちろん、それらのケースでは、定職に就いて2年間以上勤務を継続し、年収に5分の1以上の変動がないケースに比べると、収入の安定性が充分見込まれるかどうかにはやや疑問があるとの評価を受けるでしょう。裁判所に対し、過去の就労実績や現在の職の安定性を説明して、収入の安定性を納得してもらえるよう努める必要があります。

以上、要するに、勤続2年以上・年収に5分の1以上の変動なし、という条件にあてはまらないからといって、当然に給与所得者等再生が利用できないわけではなく、そのことだけで利用を断念するのは早計と覚えておきましょう。

なお、小規模個人再生を含む個人再生利用の要件全般についてはコチラでご確認ください。