債務整理コラム

2022/10/27 債務整理コラム

不貞の慰謝料請求権は免責の対象となるか

故意又は過失により既婚者と不貞行為を行った者は、当該既婚者の配偶者に対し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料を支払う義務を負う場合があります。その後、不貞行為者が破産し、免責を受けた場合、この不貞による慰謝料支払いの義務も免れることができるでしょうか。

破産者は裁判所から免責の許可を受けることにより、債務を弁済する責任を免れることができます。ただし、いくつかの類型の債務は、破産法上、非免責債権とされ、免責許可決定の効力が及ばないものとされています。債権が非免責債権に該当する場合には、破産者は、免責許可決定を受けた後も、債務に対する責任を免れることができず、債務を弁済する義務を負い続けます。

その非免責債権の1つに「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」があります(破産法253条1項2号)。
不貞による慰謝料請求権も不法行為に基づく損害賠償義務の一種です。したがって、上記の非免責債権に該当するのではないかが問題となりえます。

この点、破産法253条1項2号にいう「悪意」は、「単なる故意ではなく、他人を害する積極的な意欲、すなわち『害意』を意味する」とするのが通説です(伊藤眞他『条解破産法〔第3版〕』1744頁)。しかも、従来は、「害意」を通常の「故意」と解すべきとする有力説も存したのですが、現行破産法が3号の規定を設けて「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」を独立に非免責債権の類型としたことを受けて、有力説の論者も通説に従う旨改説するに至っています(同書同頁)。

そうすると次に、「他人を害する積極的な意欲=害意」があるとされるのはどのような場合かが問題となります。
この点、不貞行為による慰謝料請求権が非免責債権にあたるかが争われた事案で、一方的に不貞の相手方を籠絡して、相手方とその配偶者の家庭の平穏を侵害する意図があったとまでは認定できないことを理由に害意があったとはいえず、非免責債権に該当しないとした裁判例があり(東地判H28.3.11判タ1429号234頁)、参考になります。

「一方的に不貞の相手方を籠絡して、相手方とその配偶者の家庭の平穏を侵害する意図があった」と認定できるのは、一方的に不貞相手を誘惑したという経緯に加え、不貞行為に及ぶ以前から相手方の配偶者とも面識があり、かつ当該配偶者に対して恨みを抱く事情があったと認められるような、かなり特殊な事案に限られるでしょう。

すなわち、上記裁判例の見解に従う限り、不貞の慰謝料請求権は、多くのケースで非免責債権には該当せず、免責の効果が及ぶことになると思われます。