債務整理コラム

2022/11/06 債務整理コラム

勤務先会社に内密に個人再生/破産できるか

会社員が個人再生や破産を申し立てる場合、多くの方が気にされるのが申立てをしたことが勤務先の会社に知られてしまわないか、という点です。一般論としていえば、私生活上で多重債務を負ったところで、業務に支障を生じていなければ会社に不都合はないはずであり、会社が申立てを知ったからといって、万一、解雇でもされた場合には不当解雇として争えます。とはいえ、事実上、評価を下げられる懸念はあり、心配はごもっともです。

破産や個人再生の決定は官報で公表されますので、何らかのルートで会社に知られてしまうことが絶対に無いとは言えません。ですが、一般の企業が日常的に官報をチェックしていることはなく、この点、通常は過度の心配は無用でしょう。
また、個人再生や破産の制度上、裁判所や債権者から勤務先に通知がなされる手続きは存在しません(※)。したがって、申立てをしたことが当然に会社に知られるものではありません。

※ 会社から借入れがある場合を除きます。会社から借入れがある場合は会社も債権者ですから、個人再生や破産手続きの開始決定が裁判所から会社に通知されます。本稿は、会社からの借入れはないことを前提に解説しています。

実際に多くの方は、会社に知られることなく手続きを完了されているものと思います(少なくとも、私は、依頼者から「会社に知られてしまって困った」という話を聞いたことがありません。)。

手続きを進めるうえで、ときに問題となるのが、退職金額の資料です。会社を退職した場合に退職金を請求できるのであれば、これも財産として裁判所に報告し、資料を提出する必要があります。大阪地裁の場合、勤続5年以上の場合に退職金の有無・額の報告と資料の提出が求められます。

退職金の「資料」として、もっとも適切であるのは会社が発行する証明書です。
会社の人事部等に発行を依頼する際、証明書の使途を尋ねられて正直に話をするとすれば、個人再生/破産の申立予定を知られてしまうことになります。そこは皆さん、工夫して発行依頼をされているようです。
また、証明書がなくとも、退職金規程を入手できれば、規程に基づいて退職金額がいくらになるかの計算書を添付して規程とともに提出すれば、それでも足りるとするのが大阪地裁の運用です。

ということで、一般論として言う限り、申立てを会社に知られてしまう可能性は、(ゼロではないものの)相当に低く、さほど心配すべきものではないといえます。

ただし、支払停止後、申立てをすることなく長期間経過すれば、債権者が裁判を起こして判決を取り、判決に基づいて強制執行に及ぶことがありえます。債権者が強制執行として給与の差押えをした場合には、裁判所から会社に通知が行って、状況を会社に知られてしまうことになります。
したがって、その意味からも、弁護士に依頼して支払いを停止した後は、債権者のとく促が無いからといって安心せず、すみやかに書類を整えて早期に申立てに至るよう努めることが重要です。