債務整理コラム

2022/11/15 債務整理コラム

免除率の算出方法-大阪地裁”ルール”

再生計画案では、再生債権の権利の変更(減額と期限の猶予)について原則として全債権者に対して一律の基準を定めます。すなわち、債権の減額については、各再生債権について、その何パーセントをカットします、という基準を一律に定めます。個人再生において、このカットすると定めることのできるパーセンテージ(免除率)は、最大何パーセントでしょうか。

一般に、個人再生では最大、債権額を5分の1に圧縮できる、と説明されます。法律上、個人再生の再生計画案が認可されるための要件の1つとして、計画弁済総額が再生債権総額の5分の1を下回らないこと(再生債権総額が3000万円以下の場合)が求められているからです(民事再生法231条2項4号)。
そうすると、最大5分の4=80パーセントをカットする旨定めて良いことになりそうです。

実際、私の場合、以前は、そのような案を作成して裁判所に提出し、認可決定を得ていました。
しかし、あるとき書記官から、そのような処理は「間違い」だとして強く修正を求められました。
書記官に理由を尋ねると、『改正法対応 事例解説 個人再生~大阪再生物語』という文献に記載された免除率の算出方法に従っていない、と言われました。

同書は、大阪地裁と大阪弁護士会とで立ち上げた大阪個人再生手続運用研究会が編集した文献であり、大阪地裁における個人再生手続のマニュアルとして、個人再生を扱う弁護士にとって必携の書物です。
そして、たしかに同書の238頁には、再生債権総額から最低弁済額を控除した額を再生債権総額で割ってパーセントを出し、その端数(小数点以下3桁)を切り捨てて免除率を算出するものと記載されています。
これに従うと、最低弁済額を再生債権総額の5分の1に設定しようとしても、5分の1額に端数を生じないレアケースを除けば、免除率は最大でも79.99パーセントとなります。

しかし、同書の記載は法律でも規則でもありません。かつ同書の記載は、再生債権総額が500万円未満で、したがって最低弁済額の総額が100万円となるケースを前提としています。この場合であれば、免除率の計算の前に最低弁済額の総額は100万円と予め定まっています。ですので、この最低弁済額の総額を前提に免除率を計算することが可能であり、そのような計算方法に合理性があるといえます。

これに対し、再生債権総額が500万円を超え、債権総額の5分の1が最低弁済額となるケースでは、各再生債権の5分の1以上を各再生債権の最低弁済額として積み上げた額をもって最低弁済額の総額として差し支えない(法律上、問題はない)はずで、そうだとすると、免除率の計算にあたって最低弁済額の総額が予め定まっているとはいえません。同書に記載された免除率の算出方法は、最低弁済額の総額が予め定まる場合を前提としており、債権総額の5分の1が最低弁済額となる場合に適用されることを必ずしも想定していない、と考えられます。後者の場合については、免除率の上限は計算するまでもなく5分の4と法律上定まるのだから、当たり前だといえるでしょう。

このように先の書記官に反論したところ、「裁判官と相談する」との応答で、後日、「今回はこれで良いことにする」と、免除率80パーセントとした当初の案を通してくれました。
もっとも、私も、その後は書記官と揉めることを避けるべく、依頼者の了解を得て、上記文献の算式で免除率を計算するようにしています。書記官と揉めて円滑な手続きの進行が妨げられることは依頼者の利益に反しますし、免除率の上限は飽くまで上限であって、必ずしも上限ぎりぎりに免除率を設定する必要があるわけではなく、免除率を低くすることで 債権者の同意を得やすくなる、と考えれば、強ち依頼者の利益に反するとも言えないことを考慮してのことです。

書籍『改正法対応 事例解説 個人再生~大阪再生物語』