債務整理コラム

2023/11/08 債務整理コラム

家計収支表には世帯全員分の収支の記載が必要か

個人再生申立てにあたっては申立人の家計収支を明らかにする必要があります。その際、同居家族の収支も含め、合算した家計収支とすることは常に必要なことでしょうか。

大阪地裁の書式
裁判所は家計収支表から何を知りたいのか
同居家族の収支の記載が不要な場合
私の経験から

大阪地裁の書式

大阪地裁の運用では、申立前2か月分について、所定の書式の家計収支表を作成し、提出することが求められています。大阪地裁の書式に含まれる「チェックリスト」には、この家計収支表について「家計を同一にする同居家族がいるか、いる場合その全員の収入と支出を記載しているか」とのチェック項目が記載されています。
つまり、「家計を同一にする同居家族」がある場合、家計収支表には、その同居家族を含む世帯全員分の収支を記載することが求められている、ということです。

裁判所は家計収支表から何を知りたいのか

ところで、家計収支表の提出がなぜ求められるかと言えば、第一の目的は、家計の収入から支出を引いた余剰があるのか、どの程度あるのか、そして、その余剰に基づいて最低弁済額以上の弁済をするのにどの程度の期間を要する見込みなのかを把握することにあります。
ということは、申立人(債務者)の同居の息子や娘が社会人となっていて収入がある場合、彼又は彼女の収入・支出も含む世帯全員分を合算した家計収支表を作成し、その合算した金額を基に計算した余剰を把握しなければならない、ということになりそうです。

同居家族の収支の記載が不要な場合

しかし、必ずしもそうとは限りません。個人再生手続で裁判所が最も重視するのは、申立人(債務者)が再生計画で計画する弁済を予定どおり実行していける見込みの有無・程度です。個人再生は、再生計画の限度では債務の弁済が実行される見込みがあり、したがって破産よりも債権者に有利であると判断できるからこそ、破産手続によることなく、一定の範囲で債権者に債権の回収を断念させるものだからです。
この観点からすると、近い将来に独立してしまい、その収入が家計を支えるものではなくなる可能性がある子どもの収支を加味して余剰を計算することには合理性が乏しいといえます。

実際、子どもが社会人になって独自に収入を得ていれば、同居はしていても、小遣いを渡すこともなく、既にほぼ「財布は別」といってよい関係になっていることが多いのではないでしょうか。
その場合、そもそも「同居家族」ではあっても、「家計を同一にする」ものではない、と言って差し支えないでしょう。「家計を同一にする同居家族」に該当しないなら、チェックリストに照らしても、その収支を家計収支表に記載する必要は無いことになります。

私の経験から

私がこのことに気付かされたのは、ある依頼者の個人再生手続の過程でのことです。その事件では申立てにあたり、同居の子どもを含む家計収支表を提出し、その余剰額に基づいて履行可能性を説明する申立書類を提出したのですが、裁判所から、その子どもに「今後3年間同居を続け、親に給料を渡します」旨一筆書かせて提出するよう求められました。

さすがにそのように子どもの人生を制約することはできませんから、私は、依頼者と相談のうえ、子どもの収支を除いて修正した家計収支表を提出し、その結果、余剰が減少して3年の弁済計画とすることが困難となったため、5年の弁済計画の方針に変更する旨上申したところ、それ以上、何も言われることなく、開始決定を得ることができました。

以上のとおり、個人再生手続において、家計収支表に同居家族全員の収支を含めて記載することは、常に求められることではありません。事情次第だということです(※)。

※なお、倒産事件は裁判所によって運用が異なる部分があります。また、担当する裁判官、書記官によって対応が微妙に異なりうることにもご留意ください。