2023/12/23 債務整理コラム
「補正」又は「追完」の指示にどう向き合うか
大阪地裁に個人再生や自己破産(同時廃止)の申立てをすると、しばらくして裁判所から申立書類の「補正」又は「追完」の指示があります。昨今では、定型の書式に該当事項をチェックし、個別的な要求事項を加筆した書面がファックスで送られてきます。これに対する対応の仕方ないし心構えに、ちょっとしたコツがある、という話をします。
補正・追完の指示に対する事前の対策の必要性
「補正・追完ゼロ!」は可能か
補正・追完の指示を恐るるべからず
補正・追完の指示の内容としては、まず申立書類の記載に誤記や資料との不整合等のために訂正が必要な場合に訂正を求められることがありますが、その他に重要なものとして、申立書類の内容をめぐって疑問点の説明を求めるもの、追加で資料の提出を求めるもの、などがあります。
申立後に補正・追完の指示を受けてから対応していたのでは、補正・追完のために必要な情報・資料の収集のために時間を要して手続きが遅延したり、調査の結果、申立書類に記載した内容に間違いがあったことが判明して訂正をする要が生じたりするおそれがあります。訂正する事実が重要な事項であれば、裁判所から申立人の誠実性に疑いの目を向けられることにもなりかねません。
また、そもそも申立書類の「補正」と言えば、申立書類に不備があることを前提に、その不備を「補い」「正す」ことですね。申立書類の「追完」は不足している情報、資料を補って申立書類を「完」成させることでしょう。
したがって、補正又は追完の指示があることは、申立書類に不備・不足があったと指摘されていることになり、申立代理人としては恥ずべきこと、ともいえそうです。
そのため、私は、申立準備の過程で補正又は追完の指示を受けそうな事項を予め予測し、それらの回答となる内容を上申書にまとめて予め申立書類に添付して提出するようにしています。
その結果、多くの事件で、指示される補正・追完の事項は少数に留まり、指示を受けて補正・追完に窮する、といったことも、まずありません。
とはいえ、それでも補正・追完の指示は必ずあります。
かつて私は、申立準備にあたり、「補正・追完ゼロ!」を心掛けていました。
しかし、どれだけ丁寧に上申書を準備しても、補正・追完の指示が無くなることはありませんでした。裁判所から補正・追完指示のファックスを受け取り、そこに記載された、重箱の隅をつつくような指示、原則提出不要とされている書類について特段、必要性があるとも思えないのに提出を求める指示、さらには申立書類で既に報告済みの事項について報告を求める指示などを目にして、とても不快に感じたこともありました。
しかし、ある頃から、腹は立たなくなりました。申立書類の点検をする裁判所書記官の立場になって考えてみると、追完・補正の指示を何もしないわけにはいかないのだろう、と思えてきたからです。「全件で追完・補正の指示をせよ」という明示・黙示のルールがあるかどうかはともかく、ルールは無いととしても、書類を点検して追完・補正の指示をすることが自身の業務であるときに、何の指示もしないということは怠慢と見られてしまう恐れがあると考えてもおかしくありません。
逆に、申立代理人に対して何らかの指示をし、申立代理人から補正・追完を得れば、書記官としては、なすべき仕事を果たしたことになります。
そのせいか、補正・追完した後、その内容について重ねての補正・追完の指示を受けることは、(私の経験上ですが)ほとんどありません。補正・追完した内容の点検は、比較的緩やかだと感じています。
そう思うようになってからは、「補正・追完ゼロ!」を目指すことは止めました。昨今では、むしろ、「あるいは補正・追完を指示されるかも」と思う事項について、指示された場合には提出できるよう資料の収集等は進めながらも、敢えて申立段階では上申書に記載しない、といったことをする場合があります。補正・追完の指示をしやすい事項を申立書類の「遊び」ないし「余裕」として残しておくことで補正・追完の指示を出しやすくすることが、かえって円滑な手続きに資する面があるように思えるからです。
その辺りの匙加減の必要性に気付いてから、個人再生申立事件・破産申立事件を以前よりさらに円滑に処理できるようになった気がします。この「匙加減」が、事件の処理を重ねたことによって得られるコツであって、ある意味、個人再生・破産を得意とする弁護士の腕の見せ所の一つであるのかも知れません。