債務整理コラム

2025/04/24 債務整理コラム

破産・再生を申し立てれば自動車を失うか

債務整理の相談者から「破産をした場合、自動車は取り上げられるのですよね?車は仕事に必要なので、無くなると困るのですが」と尋ねられたことがあります。事情を聞いてみると、所有する自動車は、何年も前に購入した中古車で、ほぼ無価値と思われ、かつオートローンの支払いも終えている方でした。当職は、それなら心配無用であるとお答えしました。

この相談者のように誤解されている方もいらっしゃるようなので、破産・再生に伴って自動車を取り上げられるというのはそもそもどういう事態のことを指しているのか、どういう場合に実際に取り上げられることになるのか、簡単に整理してみたいと思います。

留保所有権者によって引き揚げられる場合

破産管財人によって売却される場合

留保所有権者によって引き揚げられる場合

債務者が所有する自動車を失うこととなる可能性としてまず考えられるのは、まず当該自動車について留保所有権を有する債権者から車両を引き揚げられることです。

自動車を購入する際には購入代金の一部をローンで賄うことがよく行われますが、その場合、通常、売買時の契約で代金を完済するまで車両の所有権を販売店又は保証会社若しくは立替払いをした信販会社に留保することが特約されます。この残代金の支払いを担保するために債権者が持つこととなる権利を留保所有権といいます。その特約では、債務者の支払いが滞った場合、留保所有権者が債務者に対し、車両の引渡しを求めることができるものとされています。車両を引き揚げて転売し、代金を債権の一部の回収に充てるためです。
そのような特約を含む契約に同意した債務者は、支払いが滞ったときには、留保所有権者の要求に応じ、車両を引き渡す義務を負っていることになります。債務者が破産又は個人再生を申し立てることとし、支払いを停止した場合、留保所有権者は、留保所有権に基づいて自動車の引渡しを求めてきます。その場合、債務者は、契約に基づいて自動車を引き渡す義務を負うことになります。

ところで、留保所有権は、自動車購入代金の支払いを担保するための権利ですから、代金を完済すれば消滅します。
したがって、冒頭の相談者のように、債務者が車両購入時のローンを完済している場合には、この留保所有権者の引き揚げ要求によって自動車を失う、という事態はありえないことになります。

破産管財人によって売却される場合

代金を完済している場合でも自動車を失うこととなる場面としては、破産管財人によって売却されることが考えられます。

破産管財人が選任される通常の破産手続きでは、破産管財人が破産者の財産のうち売却可能なものを売却し、債権者に対する配当の原資を作ることを試みます。破産者の所有する自動車も、売れるようなものであれば、破産管財人が売却することがありえます。
しかし、破産者が自動車を所有していれば管財人によって売却されるのが通常か、というと必ずしもそうではありません。

そもそも破産者にわずかな財産しかない場合、管財人が選任されることなく破産手続きは終わります。これを「同時廃止」といいます。
どのような場合に同時廃止となるかは裁判所によって微妙に運用が異なりますが、大阪地裁の場合、現金と普通預貯金の合計額が50万円以下であって、かつその他の財産を所定の12項目に分類して評価し、価額合計が20万円以上となる項目が無い場合には原則として、同時廃止とすることが認められています。「自動車」も12項目のうちの1つです。所有している自動車の価額が20万円以下であって、他にめぼしい財産がない、現金預金も50万円を超えない、というケースであれば、他に特段の事情がなければ、同時廃止で破産手続きを進めることができます。その場合、そもそも管財人が選任されることはありませんので、管財人によって自動車が売却される、という事態は起こり得ません。

また、管財人が選任され、かつ自動車に一定の価値があったとしても、なお売却されない可能性があります。「自由財産拡張」という制度があるからです。
法律上、99万円以下の現金は当然に「自由財産」とされ、管財人による換価の対象とならないものとされていますが、それ以外の財産であっても、自由財産拡張の申立てをし、認められた場合は、破産者の自由財産となり、換価されません。そして、大阪地裁の運用では、自動車は定型的拡張適格財産の1つとされ、現金・普通預貯金、他の拡張される財産とあわせて99万円以下の場合は、自由財産拡張が相当とされています。したがって、破産者に他に目ぼしい財産がない場合、自動車の価値も高額でないケースでは、自動車について自由財産拡張を申し立てれば、拡張は認められることになります。

この点、個人再生を申し立てたケースではどうでしょうか。
個人再生の場合は、「管財人」はいませんから、管財人に売却されてしまうということは、およそありえません。
ただ、所有する財産の価額が最低弁済額の基準の1つとされている関係で、所有する自動車に価値があれば、その分、最低弁済額が増えることにはなります。増えたとしても、その最低弁済額以上の額を原則3年間(最長5年間)で弁済していく見込みがあるのなら、再生計画の認可を得ることは可能です。その場合、再生のために自動車を売却する必要はありません。