債務整理コラム

2024/01/03 債務整理コラム

少額債権の定めについて

個人再生手続きの結果、債権者の権利に生じる変更は、すべての債権者について平等であるのが原則とされています(民事再生法229条1項)。
ただし、例外として、少額の債権について別段の定めを設けることが認められています(同項ただし書)。今回は、この「少額債権の定め」について、ご説明しましょう。

「少額債権の定め」の概要
「少額の債権」の要件
「別段の定め」の中味
「逆転現象」を生じても良いか

「少額債権の定め」の概要

債権者を公平に取り扱うことは、倒産法一般に共通する理念です。総債権者への支払いが困難な状況で特定の債権者にだけ弁済することは、この理念に反します。したがって、たとえ少額の債権者であっても、申立前に弁済してしまうという処理は適切とは言えず、他の債権者と同じく債権者として名前を挙げ、再生手続きにおける処理のレールに載せるのが原則であるといえます。弁護士が個人再生申立の依頼を受ければ、通常、依頼者から報告を受けた債権者全部について、債権額の多寡に関わらず、債権者一覧表に記載して裁判所に提出します。

しかし、もともと少額の債権を再生債権として取り扱うと、再生計画による権利変更後の金額は、さらに少額となり、これを再生計画に従って分割弁済していくものとすると、1回あたりの弁済額が振込手数料にも満たない、といったケースを生じることがあり得ます。その場合にも債権者間の平等を貫いて、弁済額を超えるような振込手数料の負担を再生債務者に強いることは、経済的合理性に疑問を生じるところです。

そこで、法律は、「少額の再生債権の弁済の時期」については、別段の定めを設けることを許容しています(民事再生法229条1項)。
「弁済の時期」に関する「別段の定め」ですから、弁済率は他の債権者と同じで、ただ、弁済の時期についてのみ、他の債権者は36回払いのところを1回払いにするなどの特別の取扱いが許容されているのです(個人再生の場合です。一般の民事再生の場合は異なります。)。
その限度で特別な取扱いをすることは、債権が「少額」であることを踏まえれば、債権者間の公平を実質的に害するものでない、と考えられています。

「少額の債権」の要件

ここで「少額の再生債権」とは何かが問題となりますが、法律には、その定義規定はありません。
大阪地裁の運用では、1か月あたりの弁済額が1000円に満たないことが原則的な要件とされています。すなわち再生計画に基づく弁済総額が弁済期間3年の計画であれば3万6千円未満、5年の計画であれば6万円未満の債権であれば、問題なく、少額債権として認められます。

この基準を超える場合にも少額債権の定めを設けることが許されないわけではありませんが、その場合は、少額債権の定めを設ける理由を再生計画案の別紙で説明することが求められます。そして、意見聴取手続きにおける債権者の意見の有無・内容をも考慮して、裁判所が認可・不認可の判断をするものとされています。

「別段の定め」の中味

「弁済の時期」に関する「別段の定め」の中味については、少額債権の定めが許される趣旨が著しく少額の弁済額となることを回避できるようにすることにあることから明らかなとおり、他の債権者に比して弁済回数を減らし、1回あたりの弁済額を増やすものである必要があります。
たとえば、他の債権者に対しては36回(毎月)払いのところ、12回払いとすることや、他の債権者に対しては12回(3か月に1回)払いのところ、1回払いとする、といったことが考えられます。

「逆転現象」を生じても良いか

この点、従前、私は、特例とは言え、なるべく債権者間の公平を損なうことがないように、1回あたりの弁済額に逆転が生じないように配慮して少額債権の定めを立案していました。少額債権の特例を受ける債権者が1回5千円の弁済を受けるのに、その他の債権者の中に1回4千円の弁済しか受けない債権者があったのでは、債権者間の公平を損なうというべきではないか、と考え、そのような逆縁現象が生じないように少額債権の弁済回数を調整してたのです。

しかし、あるとき、逆転現象を回避する必要から複数回の弁済回数とした少額債権の定めを含む再生計画案を作成し、裁判所(大阪地裁)に提出したところ、裁判所書記官から、少額債権の弁済回数を1回に変更することを勧められました。書記官曰くは、少額債権の特例の限度では法が不公平な扱いを許容しているのだから、そこまで公平に配慮する必要はないだろうし、再生債務者は積立てをしているので、1回目の弁済額が少々、多額となっても問題なかろう、と言うのです。

たしかに、大阪地裁の運用では、申立人(再生債務者)は、再生計画の履行可能性を実証するために毎月、1か月あたりの弁済予定額程度の積立てを求められますので、再生計画の認可決定が確定するころには、数か月分の弁済資金を積み立てています。したがって、少額債権について1回で弁済することとしても困らないことが普通です。少額債権についての弁済回数が少なくなることは、その分、煩雑さが減り、振込手数料の節約になる、という意味で再生債務者にとって利益となります。

そこで、その後は、少額債権の定めを設ける際には、逆転現象を生じるとしても1回払いとすることを原則に(もちろん、本人の了解を得たうえで)立案するようにしています。裁判所から、逆転現象を生じていることを問題視する指摘を受けたことは、今のところ、ありません。